技術と社会が交わる時 〜介護保険制度の遷移と技術の進化〜

(公開日:2017年9月18日)

私が投資育成に関わりながら新事業を模索し始めたのは2000年、それは介護保険制度がはじまった年でもあった。メディアでも介護ビジネスがしばしば取り上げられ、特にバブル時代にディスコ経営で注目を集めた起業家が経営する介護ビジネスは、随分、メディアへの露出が多かった(数年後、相次ぐ不正が発覚して市場から退場するのだが)。

当時のテクノロジーは高齢者の生活を支えられるほど、優しくも、知的でもなく、介護ビジネスは19世紀的な労働集約型で国が定めた介護報酬が頼みの綱だった。が、当時は、その報酬が潤沢にあると希望的観測で錯覚し、絶対儲かるとまで言い張る輩が少なからずいた(似たようなことは、太陽光発電のFITでも繰り返されるが…)。

時代を先駆けて、(当時としては)簡単なデバイスで脳波を測り、アルツハイマー病を早期発見する、というスタートアップもあった。しかし、当時はアルツハイマーの症状進行の遅延薬もなく、各種セラピーの効果も定かではなかった。インタビューした専門医からは、逆にその意義を問われた。「そのデバイスでアルツハイマー病であることが分かったとします。でも、現状、何もできません。あなたが患者だとしたら、それで何か嬉しいですか?私には、かえって残酷に思えます」

あれから、十数年の歳月が流れた。高齢化率は益々高まり、介護の現場の人手不足は益々深刻になり、政府の財政は益々厳しくなった。しかし、それら以上に、AIやIoT、ロボティクス等技術の進歩は速度が上がり、当時と今では、思い描ける景色が別世界になった。アルツハイマーを含む、ほとんどの認知症に対し、症状進行を遅延する薬が市販され、治癒薬の臨床試験も多数実施されている(*)。政府も財政を破綻させずに高齢化社会の課題を乗り越える方法を、金ではなく頭を使って、かつてない程、真剣に真摯に考え、取り組んでいる。

本スライドでは、介護保険制度の歴史を技術の進歩と合わせて簡単に振り返りながら、日本社会が置かれた現状をイノベーションの機会という視点で考える。

(*) 昨年末に臨床試験で先行していた2つのアルツハイマー治療薬は、残念ながら最終段階の試験で失敗に終わった。しかし、まだ、何十件もの臨床試験が進行中だ.ちなみに、アルツハイマーの症状進行を遅延する薬は4つ存在するが、その陰には実に123もの薬が臨床試験で失敗した。一般に、臨床試験を開始した薬が臨床試験に成功し、承認される確率は12%(米国)。一つや二つの薬が臨床試験に失敗しても、一喜一憂しない心積りが必要だろう。

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